大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)18号 判決

事実及び理由

一  本件の特許庁における手続の経緯、本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。そこで、以下原告主張にかかる取消事由の有無について検討する。

二  取消事由(一)について

成立に争いない甲第二号証(本願考案の明細書)および同第三号証(引用例)によれば、原告主張のごとく、回動枠と連動して磁石針を自動的に休止させる機構について、本願考案のものが自重を利用しているのに対し、引用例のものは弾力を利用している点に構成上の相違がある事実を認めることができる。

しかしながら、成立に争いのない乙第一号証(昭和一八年実用新案出願公告第一一六〇三号公報)によれば、磁石容器における磁針休止装置として、容器内の押子をもつて止子の基端部を上方に押圧することにより磁針を浮上らせて方向の指示を休止する構造のものが認められる。また、成立に争いのない乙第二号証(実用新案登録第三五五四四八号公報)によれば、磁石容器における磁針休止装置として、止子の基端部を龍頭の捻廻により龍頭の軸端の凸子をもつて扛上して磁針を押上げて磁針の指向を休止させるようにしたものが認められる。したがつて、本願出願当時、一般のコンパスにおいて磁石針を休止させるために自重を利用する機構は周知のものであつたということができる。もつとも、本願考案のコンパスは回動枠と連動して磁石針を休止させる機構のものであつて、この点において前記乙第一、二号証に記載された一般的なコンパスと相違するところはあるが、磁石針を休止させるためにどのような力を利用するかの点について考察した場合には、本願考案のものも乙第一、二号証記載のものも異なるところはないものといつて差支えない。それゆえ、本願考案のものにおいて自重を利用して磁石針を自動的に休止させる機構は、前記周知の技術よりきわめて容易に考案することができるものと認められる。

そうだとすれば、本件審決は、本願考案について引用例記載の技術及び慣用の技術手段に基づいてその進歩性を否定しているのであるから、原告主張のごとき違法があるとすることはできない。

三  取消事由(二)について

一般のコンパスにおいて、磁石針をピポツトから浮かすための連杆機構の係合部を磁石盤ケース内部に置く機構が周知であつた事実は、当事者間に争いがない。

原告は、この周知の機構と本願考案の機構とが技術分野を異にする旨主張する。しかし、前記甲第二号証によれば、本願考案は望遠鏡を起伏できるようにしたコンパスに関するものであるから、本願考案のうちコンパスの部分に関しては、前記当事者間に争いのない周知の事項と技術分野を同じくするものと解して妨げない。そして、原告の主張する本願考案における回動枠とコンパスのレバーとの掛合部に関する機構は、コンパスのレバーを外部より操作するための、外部の操作機構とレバーとの係合部に関する機構と解することができるから(前記乙第一号証によれば、一般のコンパスにおいても、コンパスの止子を外部より操作するために、外端部に摘部を形成し、押子を突設した軸が設けられ、容器の内部において押子が止子の基端部と係合し、容器の外側にある摘部を操作することにより止子の先端部を移動するような機構のものが認められる。)、帰するところコンパスの部分に関するものと解してよい。したがつて、前記周知の機構が本願考案の機構とその技術分野を異にするものということはできない。

それゆえ、前記当事者間に争いのない周知技術を前提とすれば、本願考案が回動枠とレバーとの掛合部を盤内部に設けたことは、当業者において任意に取捨選択可能な技術に属するものというべきであつて、本件審決には原告主張の違法はない。

四  よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は失当であるから棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

基台上に水平面内で回動すべく枢支した磁石盤と、この磁石盤の側面に垂直面内で回動すべく枢支した回動枠と、この回動枠にその垂直面と直交する垂直面内で回動すべく枢着した望遠鏡と、磁石盤内に植設したピポツトの上端に枢支した磁石針と、磁石盤内に上下に回動するように枢支した一対のレバーとよりなり、これらのレバーの内端部は前記磁石針の軸受の下方に位置させ、また、その一方のレバーの外端部には前記回動枠の軸に設けた突起を係合し、他方のレバーの外端部には一端を磁石内に固定した弾性板よりなる腕の自由端を対向させ、磁石盤の側面にはこの腕を押圧する螺子を枢着してなるコンパス。

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